教員には様々な業務があります。その中でも中心となるのが「授業」です。
当然、授業づくりについての教員研修等がある一方、はじめて授業づくりをすることに向けた「具体的なハウツー」の研修は見たことがありません。授業づくりは様々な手法があり、一人ひとりやり方が異なるからでしょう。
各自の自由度が高いことは、自由に工夫できるためやりやすさにつながります。しかし、はじめて授業づくりをする新任教師にとっては、具体的にどう準備したら良いのかわからず、戸惑ってしまうでしょう。私も初任時代がそうでした。
そこでこの記事では、新規採用の教員の方や若手教員の方に向けて、私自身が「こんなの教えてほしかった!」という授業づくりの超具体的なハウツーを紹介します。これをベースに各自でアレンジしてもらえるといいと思います。また、私の専門である算数・数学授業で説明しますが、その他の教科にも応用できる内容です。教科、校種(小・中)問わず、参考にしてもらえると嬉しいです。
授業づくりをはじめる前の準備
まずは、授業準備をはじめる前に準備しておくべき物やことについて超具体的に説明していきます。
準備するもの
授業準備に取り掛かる際、まず手元に用意するものは以下の2点です。
指導書
勤務校の職員であれば、その教科の指導書は手元にあるはずです。なければ、教科書でも構いません。
ノート
授業づくりについてのメモをするための専用のノートです。ノートは学年・教科ごとに専用のノートを作成しましょう(例:小学5年算数で1冊)。これは、後で参照しやすくするためです。
紙でもデジタルでもどちらでもよいです。ただし、紙の場合はルーズリーフが良いと思います。ルーズリーフにしておけば、中学校なら他学年、小学校なら他教科の授業づくりを同じルーズリーフ内で仕切って管理できるからです。
個人的には、iPadのGoodNotesというアプリがおすすめです。これから経験を重ねていくごとに授業準備のデータはどんどん蓄積されていきますが、それらをiPad一つでコンパクトに管理できるからです。私はずっとルーズリーフを使っていましたが、iPadを購入してからGoodNotesでの管理にかえました。ルーズリーフに残したデータはすべて写真データとしてGoodNotesに取り込んでいます。
授業の基本的な流れを確認する
指導書(教科書)とノートが準備できたら、授業の基本的な流れをまずは確認しましょう。用意したノートの最初のページにメモとして書いておくのも良いです。
あらかじめお伝えしておくと、この「流れ」については自治体や授業について指導する教官等によって異なります。教科によっても違いがあります。ここでは、あくまで私個人が算数・数学授業の流れとして現時点で良いと考えているものを示します。この記事の冒頭でもお伝えした通り、「色々あるよ」では困ると思いますので、まずはこれをベースにしてみてください。
①復習
まずは、本時の活動を行うために必要な、既習事項の復習を行います。
②問題提示
復習の後は、問題提示です。ここでは、基本的に教科書の問題を想定しています。
③「問い」の設定
問題を踏まえて、その日の授業で子どもたちがずっと考えていく問いを示します。「この問いがわかれば、今日の目標に到達したといえる」というものです。
- 「〜はなぜなのだろう?」
- 「〜しているものは何?」
など、文末が必ず「?」になるような言葉を考えます。
④見通し
ここでは、「問い」を解決するために、授業で何をしていけばいいかという「見通し」について確認していきます。
⑤活動(ここがメイン)
①〜④までを全体で確認した後、その日の授業のメインとなる活動を行います。
- 個人で
- グループで
- 2人ペアで
など、形態は様々です。どのような形態で活動を行うかは、授業者としての意図などによって変わります。
⑥まとめ
メインの活動が終了したら、クラス全体で「まとめ」の時間を取ります。
ここでは、「問い」に対する答えを確認することが大切です。
⑦適用問題(練習)
「まとめ」の内容を適用しながら解くような練習問題を設定します。
「まとめ」で分かった気になっていたけれど、実はまだ不安定な知識について、正しい理解を促すのがこの「適用問題」です。
⑧振り返り(個人の言葉で記述)
最後は「ふり返り」です。「まとめ」と混同しがちですが、私の中では明確に使い分けています。
「まとめ」では「問いに対する答え」を明確にしてまとめる時間であり、クラス全体で活動を思い返しながら同じものを子どもたちがノートなどに記載することが多いです。
それに対して「振り返り」は各自の活動を振り返る時間なので、各自が自分の言葉で授業をふり返って記載します。
「楽しかった」とか「できてよかった」などは振り返りとしての意味を成しません。そのため、
- 授業を通してわかったこと、まだわからないこと
- 疑問に思ったこと、もっと調べてみたいこと
- 学習方法について気づいたこと
など、書くことを焦点化するのが良いでしょう。
単元計画を確認して「ねらい」をノートに記入する
「準備するもの」と「授業の流れの確認」が済んだところで、ここからは具体的な授業づくりの方法について説明していきます。
実際に授業づくりをしながら読み進めていただくのもいいかなと思っています。
単元計画の確認
授業づくりは、単元で考えるのが基本です。
まず、指導書の単元の最初のページに目を通します。そこには、単元全体で何を学ぶのか、どれくらいの時間をかけるのかといった概要が示されています。ざっと目を通しましょう。教師自身が単元全体を把握することが、子供たちにどのように学ばせるかを考える上で必要です。
ノートに記入していくための準備
単元全体の確認が終わったら、その単元の第1時から実際に授業づくりを行っていきます。ノートに「単元名」と「第何時なのか」を記入します。
実際に授業で書く板書は3分割が基本です。具体的な授業の流れをもとに板書のようにメモしていけるよう、ノートを直線でおよそ3分割します。A4サイズのノートであれば、1ページに2〜3時間分の授業計画をメモできるようにスペースをつくります。

1時間の授業のねらいを決める
指導書の該当ページを開きます。指導書に記載されている目標や狙いを参考に、この授業で教師が何を狙うのかをメモします。
その際、指導書の内容をそのまま書き写すのではなく、「この授業で子供たちにこれを身につけさせないといけない」という、授業を進める上での寄り所となる単純な一言に要約して書きます。
例: 「円と正多角形」の第1時であれば、「正多角形とは何かを知る」など。

具体的な授業の流れをもとに板書のようにメモ
授業のねらいが決まったら、具体的な授業計画を作成していきます。私は、黒板に書く「板書」をベースにしてメモしていますので、そのやり方で紹介します。
設定した狙いを達成するための、具体的な授業の流れをノートにメモしていきます。授業は、この記事のはじめでお伝えした、
- ①復習
- ②問題提示
- ③問い
- ④見通し
- ⑤メインの活動
- ⑥まとめ
- ⑦適用問題
- ⑧振り返り
の流れで授業を考えていきます。
「ねらい」から逆算して「まとめ」を書く
私はまず、まとめから書いていきます。先ほど決めた「ねらい」から逆算して、授業の最後にどんなまとめをすればねらいを達成できるのかを考えましょう。
例えば、「正多角形とは何かを知る」がねらいであった場合、「正多角形とは、〜で、〜なものだ」という様にまとめることができれば、ねらいを達成できそうです。
「まとめ」を決めるヒントは教科書にもあります。教科書のその日扱うページの最後に「まとめ」として書かれていることも多いので、教科書をよく確認してみましょう。

「問い」の設定
次に、「まとめ」が答えとなるような「問い」を考えます。
問題を踏まえて、この1時間、子供たちが何を考えていくのかを問いとして設定します。「この問いがわかれば、今日の目標に到達したといえる」というものです。
この「問いの設定」が授業づくりで最も重要な部分です。
授業のねらいとする内容(力)がつくように、子供たちの思考を導くことが目的です。
- 「〜はなぜなのだろうか?」
- 「〜しているものは何か?」
など、文末が必ず「?」になるような言葉を考えます。
また、特定の計算の答えを求めるような問いではなく、どのような数値であっても適用できる原理や方法を考えさせる問いを設定するのもポイントです。
- (悪い例:42×7の答えは?)
- (良い例:42×7のような『2けた×1けたの筆算』はどのようにやれば良いか?)

私は、この「問い」を自分にも児童生徒にも強く意識させるために、青字に色を変えて強調します。黒板にも自分用のノートにも同じ青色で示します。
「問題」の設定
次は、問題の設定です。設定した「問い」に向かっていくために取り組んでいく具体的な問題を設定します。
授業づくりに慣れてくれば独自に作成することもありますが、基本的には教科書の問題を活用しましょう。というのも、教科書は本当によく考えられてつくられています。数値の設定なども絶妙です。私個人としては、経験を積めば積むほど教科書の良さを感じて、結局教科書に戻ってきている感覚はあります。
ノートにメモする際には、ページと問題番号だけをメモしておくだけで十分です。問題を書き写すなどは時間の無駄ですのでしないようにしましょう。これは子どもたちに対しても、同様です。

復習
次に考えるのは「復習」として何に取り組ませるかです。
ここでポイントとなるのは、本時の「問題」や「問い」を考えていく上で必要な既習事項の確認を行うということです。何でもかんでも、前回の授業の内容を振り返る必要はありません。
結果として前回の復習を行うことになることは多いですが、過去の学年の復習が必要になったり、逆に復習は必要ない場合もあります。
復習で扱う内容は、今日学習する内容について必要不可欠なこと(知っていないと進められないこと)に絞ります。
- 確認すべき内容(例:こういう内容について確認する)や、ドリル・教科書のページ情報などを短くメモします。

見通し
ここでは、「問い」を解決するために、授業で何をしていけばいいかという「見通し」について確認していきます。
問いを考えるための道筋や見通しを立てます。これは、得意な子も苦手な子も、この後の活動を理解しやすくするために必要です。
この見通しをもとに、その日の授業のメインとなる活動が決まっていきます。
この「見通し」は、実際の授業では子供たちとのやり取りを通して導き出していくのが理想ですが、準備の段階では教師側で意図するキーワードをメモしておきます。
例:「図を使う」「式で考える」「〜と〜を比較して」など。

活動(ここがメイン)
ここまでの準備で、その日考えるべき「問い」と、それをどのような「見通し」で考えていくかという部分が固まっているはずです。
準備段階のメモには、
- 学習形態はどうするか(個人?ペア?グループ?)
- 「問い」の解決のために絶対に押さえるべきポイントは?
などを書き込んでおきます。
学習形態をどのようにするか?という点については、授業者としての意図や子どもたちの実態などによって変わります。しかし、今回は「新任・若手教員向け」としぼっていますので、
- まずは一人で問題に取り組み(個人追究)
- グループまたはペアで意見交換して(協働追究)
- クラス全体で共有して、重要なポイントを押さえる(全体共有)
の流れが最もオーソドックスなパターンだと考えておくのがいいと思います。その上で、ご自身のやりやすい形にアレンジしていくのが良いのではないでしょうか。

適用問題(練習)
「まとめ」の内容を適用しながら解くような練習問題を設定します。
「まとめ」で分かったつもりになっている、実はまだ不安定な理解を、正しく定着させることが目的です。「適用問題」という言葉を使うことが多いです。
「問題」と同じく、基本的には教科書の問題を活用するのが良いでしょう。

振り返り(個人の言葉で記述させる)
最後は「振り返り」です。準備段階では特にやることはありません。「最後に振り返りの時間を設定する」という意識をもつために、ノートに「振り返り」と書いておくだけで十分です。
「まとめ」と混同しがちですが、私の中では明確に使い分けています。「問いに対する答え」を明確にしてまとめる「まとめ」に対して、「振り返り」は各自の活動を自分自身で振り返る時間です。
各自が自分の言葉で授業をふり返って記載する時間を設定します。「楽しかった」とか「できてよかった」などは振り返りとしての意味を成しません。そのため、
- 授業を通してわかったこと、まだわからないこと
- 疑問に思ったこと、もっと調べてみたいこと
- 学習方法について気づいたこと
など、書くことを焦点化するのが良いでしょう。

まとめ
算数・数学の授業づくりの流れとポイントについてまとめると、
- 単元全体の流れをざっと確認した上で、授業の「ねらい」を決める
- ねらいから逆算して「まとめ」を考える
- 「まとめ」が答えとなる「問い」を設定する(文末は必ず”?”)【最重要】
- 「問題」を決める
- 「復習」で、活動に必要な既習事項を確認する
- 見通しを考える
- 活動の形態等を考える
- 練習問題を考える
という形です。

これはあくまで基本となるベースですので、必ずこうでなければならないというようなものではありません。実際、ある程度経験のある教員の方何人かに聞けば、それぞれ違った「授業のベース」の話が聞けると思います。方法は本当に様々なのです。
この記事では、授業づくりにまだ慣れていない、新任・若手教員の皆さんに対して、「とりあえずこれ」という型を示しました。私自身、その「型」すらわからず授業づくりに苦労した経験があるからです。暗中模索した経験も今の自分にとっては価値あるものですが、やはり基本となる「型」は先に知っていたかったなという気持ちが強いです。
少しでも「いいな」と思っていただけたら、この私の「型」から始めて、慣れてきたら自分なりにアレンジして自分なりの授業づくりの方法を確立してください。
この記事が、授業づくりについて考える皆さんのお役に少しでも立てたなら嬉しいです。最後までお読みいただきありがとうございました。
