学校の算数・数学で何を学ぶかを示しているのが「学習指導要領」とよばれるものです。およそ10年に一度改定されます。
2026年3月現在、その「学習指導要領」の改定に向けて議論が進められています。
そんな中注目されているのが、小学校の「算数」を中学校以降と同じように「数学」へと名称を変えることが検討されているということです。
この記事では、そのような状況の中、
- そもそも今の「算数」と「数学」の違いは?
- 小学校が「数学」になると何が変わるの?
ということについて解説していきます。
日本の「算数」「数学」の歴史は?
もともと日本では「和算」や「算術」などとよばれていた
「数学史(中村滋・室井和男 著,共立出版)」によると、1622年に日本の最古の数学書の一つである「割算書」が出版され、1627年には「塵劫記」が出版されています。

「塵劫記」というのは、単位やかけ算の九九などの基礎的な知識の他、面積や利息計算、更には平方根などに至るまで、様々な算術全般について書かれた、江戸時代の算術書です。
また、円周率などで有名な関孝和(1645頃〜1708)が1674年に出版した「発微算法」などによって、日本の「和算」が急速に発展したと言われています。
これらは今で言う「算数」や「数学」の内容にあたりますが、当時は「算術」や「和算」、「算法」などと言われていました。
西洋の「Mathematics」を採用したことで「数学」とよぶようになる
日本独自の発展を遂げた「和算」ですが、明治政府は富国強兵のために欧米の知識や技術を急速に取り入れるようになります。
そこで、「西洋式」の学問を取り入れるようになります。
西洋では、日本の「和算」や「算術」にあたる学問は「Mathematics」とよばれていました(今もそうですが)。
西洋の「Mathematics」は、計算力だけを指す算術(Arithmetic)よりも広範で、理論的・抽象的な学問を指していました。
そこで、「Mathematics」を翻訳して「数学」としました。
明治時代から大正・昭和にかけて、日本の数学者たちが微分積分学や集合論などの概念を西洋から導入・翻訳する際に「数学」という言葉を使ったことで、よび方が定着するようになったと言われています。
最初の学習指導要領から小は「算数」で中は「数学」
小・中学校で学習する内容は学習指導要領によって定められています。
全国のどの地域で教育を受けても、一定の水準の教育を受けられるようにするため、文部科学省では、学校教育法等に基づき、各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準を定めています。これを「学習指導要領」といいます。
(中略)
「学習指導要領」は、戦後すぐに試案として作られましたが、現在のような大臣告示の形で定められたのは昭和33年のことであり、それ以来、ほぼ10年毎に改訂されてきました。
文部科学省HPより
現在の形となった初めての学習指導要領である、昭和33(1958)年の小学校学習指導要領を見ると、そこには既に「算数」と記載されています。
同様に昭和33(1958)年の中学校学習指導要領には「数学」と記載されています。
小学校でのよび方の違いについては、もう少しさかのぼり、昭和16(1941)年の「国民学校令」の時点から「算数」という言葉が使われているようです。
では、なぜ小学校で「数学」ではなく「算数」とよび方を変えるようになったのか…?
以下で、もう少し詳しく見ていきましょう。
「算数」と「数学」の違いは?
では「算数」と「数学」の違いは何なのでしょうか?

「算数」と「数学」の違いを考えていくために、小学校学習指導要領解説(算数編)に記載されていることについて触れていく必要があります。
小学校「算数」でも「数学的活動」というものが示されている
実は、すでに小学校「算数」の学習活動の中で「数学」という言葉が使われているものがあります。
それは、「数学的活動」というものです。
「算数的活動」ではなく、「数学的活動」です。
これは、平成29(2017)年改定の学習指導要領からで、それまでは「算数的活動」とよばれていました。その理由について、小学校学習指導要領解説(算数編)では、以下のように説明しています。
(前略)…このような数学的活動は,小・中・高等学校教育を通じて資質・能力の育成を目指す際に行われるものであり,小学校においても,中学校や高等学校と同様に必要な活動である。そこで,従来の算数的活動を数学的活動とし,目標の中で「数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を育成することを目指す」と示した。
小学校学習指導要領解説(算数編),p8
「算数」と「数学」の違いは抽象度の違い
さらに、学習指導要領解説(算数編)には、小学校で「算数」とよぶ理由が明確に示されています。
小学校の時に具体物を伴って素朴に学んできた内容を,中学校では数の範囲を広げ,抽象的・論理的に整理して学習し直すことになる。そして,さらに高等学校・大学ではそれらが,数学の体系の中に位置付けられていく。以上のことから,小学校では教科名を「算数」とし,中学校以上の「数学」と教科名を分けている。
小学校学習指導要領解説(算数編),p9
上記の学習指導要領解説(算数編)を読み解いていくと、
- 小学校の「算数」は、具体物を伴った素朴な学び
- 中学校の「数学」は、抽象的で論理的に構成された学び
ということになります。

学習指導要領解説(算数編)には、具体例として以下のように記載されています。
(前略)…小学校段階では,数学として抽象的で論理的に構成された内容になっていない。例えば,「整数」,「比例」という用語は小学校で初めて学習するが,中学校では負の数を学習する際に,これらの用語の意味を捉え直す必要がある。小学校では比例は,一方が増えればもう一方もそれに対応して増える関係として捉えることができたが,中学校では x の係数が負の場合も扱うことになり,その場合には,一方が増えればそれに対応して減る関係になる。
小学校学習指導要領解説(算数編),p8-9
ここでは、負の数(マイナスの数)を例に説明しています。小学校では負の数(マイナスの数)は学習しません。たしかに、負の数(マイナスの数)は具体物で表現することはできない数であり、抽象度が増しています。
このように、小学校「算数」よりも数の範囲を広げ、抽象的に整理して学び直す学習として中学校「数学」を位置づけていることがわかります。
なぜ、小学校の「算数」が「数学」に変わるかもしれないの?
現在の日本の教育における「算数」と「数学」の違いはおわかりいただけたのではないでしょうか?
では、なぜ今小学校の「算数」が「数学」に変わるかもしれないのか?

ここからはそのことについて考えていきます。あらかじめお伝えしておくと、この点についてはこの記事を書いている2026年3月現在、まさに議論中であり、今後進展が予想されます。あくまで、現時点で言われていることですので予めご了承ください。
中1ギャップ解消
小学校から中学校に進んで「算数」から「数学」になったときに、学習につまずく子どもが多いというデータがあります。

その原因の一つとして考えられているのが、「算数」から「数学」へと名前が変わるということです。
名前が変わることで、子どもたちが「算数」と「数学」を別の教科のように感じてしまい、中学校で急に難しくなったと感じやすいのではないかと考えられています。
実際、子どもが「算数」と「数学」を別のものとして認識している実態が指摘されています。
名称が分かれていること自体が、この「中1ギャップ」を助長してしまっているのではないかという問題意識から、教科名を小学校から「数学」に統一してしまおうという議論があります。
小・中・高12年間のつながりを意識して指導したい
今の学習指導要領の改定では、算数・数学に限らず、小・中・高の12年間を一つのつながりとして捉え直そうという、大きな動きがあります。

「算数・数学科」においては、その動きの中で、これまで独立していた教科の「目標」や「数学的な見方・考え方」についての記載も、小・中・高で統一する方向で議論されています。
つまり、12年間を通じて同じ視点で算数・数学の学習を深めていくという構造に変えようとしているのです。
そうした中で、教科名も統一するのがいいのではないかという議論が進んでいるのです。
算数科と数学科の違いが明確でない
そもそも、「算数」と「数学」の違いについて答えられる人はどの位いるのでしょうか?

小学校で学習するのが「算数」で、中学校で学習するのが「数学」
という位でしか答えられないケースがほとんどではないでしょうか?
また、英語では教科として算数と数学を分けておらず、「Mathematics」です。日本の小学校の外国語の授業でも、教科名は算数も数学も「Math」と習います。これは「Mathematics」を短縮していう時の言い方です。
学習する領域によって言い方が別れている、
- 「社会」(高校からは『地理・歴史・公民』)
- 「理科」(高校からは『物理・科学・生物・地学』)
などとは異なり、算数科と数学科の違いが明確ではないという点も名称を変更しようとしている理由です。
小学校の「算数」が「数学」に変わるとどうなるの?
ここからは、個人的な意見です。
私個人としては、

「算数」が「数学」に名称変更しても、特に何も変わらない
と考えています。
この記事の上の方で述べた「算数的活動」が「数学的活動」に変わった際にも、それによる変化はほとんどありませんでした。現場としては、名称が変わるよりも、学習する内容がどう変わるかの方が重要です。
もしかすると子どもたちにとっては
「名前が変わることで、内容が難しくなるの?」
と、不安に思うこともあるかもしれません。
そんなとき、周りの大人が「名前が変わるだけだから大丈夫」としっかり伝えることが大切です。
まとめ
この記事では、小学校の「算数」を中学校以降と同じように「数学」へと名称を変えることが検討されている中、
- そもそも今の「算数」と「数学」の違いは?
- 小学校が「数学」になると何が変わるの?
ということについて解説してきました。
何事も変化には不安がつきものです。
これまで通りの10年毎の改定ですが、名称が変わることになれば世間にも大きな印象が残ることが予想されます。不安に感じる子どもや保護者、そして教員の皆さんも多いかもしれません。
この記事の内容が、そんな不安を少しでも解消する助けになれれば嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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