「子どもを叱ってはいけない。ほめて伸ばすのがいい。」
そんなことを耳にすることが多くなった教育界の今日このごろ…。皆さんは「ほめる」「叱る」についてどう思いますか?
この記事では、「叱ることで子どもが成長する」は本当か?という問いについて、「統計」という視点から解説していきます。
ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』
この記事で紹介するのは、ノーベル経済学賞受賞ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』という本の内容です。


この本はビジネス書としてかなり有名であり、お読みになった方もいるかもしれません。
平均回帰(Regression to the Mean)
この『ファスト&スロー』から、「平均への回帰」という統計的現象について紹介します。
本の中で紹介されていたのが、「平均回帰(Regression to the Mean)」という考え方です。
少し難しそうな言葉ですが、考え方はとてもシンプルです。
極端に良い結果や極端に悪い結果が出た後は、その人本来の実力に近い、平均的な結果へ戻っていく傾向があるという統計的な現象です。
本の中では、ある空軍の研修会でのエピソードが紹介されています。
ある国の空軍の教官に対して行われた研修会でのこと。研修では「パイロットは、叱らずに褒めてのばせ」というようなことが講師から語られましたが、それに対してある教官(研修参加者)が反論を展開します。

教官として長く勤務してきたが、ミスがあった際に『厳しく叱責する』ことによってその後の改善が見られたことは経験上明らかだ。

逆に、『ほめた』後はその兵士の成績が下がることも、経験上実感している。
皆さんはこれを見てどう感じますか?
経験だけを聞けば、とても説得力があります。しかし、カーネマンはこれを「平均回帰」で説明します。
「平均回帰」とは、極端な(対象者の平均から離れた)結果の後は、運や偶然により平均的な結果に戻っていくという統計的現象のことです。例えば、ある対象者が能力からみて大きく悪い結果、つまり『ミス』があった場合、その次には平均的な結果へと戻っていくということです。逆に、能力に対してとても良い結果が出た次も、平均的な結果に戻っていきます。
これを、空軍の話に戻して考えます。そもそも、『厳しく叱責する』という状況は、そのパイロットの実力から考えて大きく低いスコアを出した場合でしょう。この現象(あえて現象といいますが)を、統計的に「平均回帰」で考えると、教官が何をしようが次の結果は平均に回帰していく、つまり次は『良くなる』のです。逆も同じです。飛行演習などで『ほめる』というのは、実力から見て上回るスコアを出した状況です。これも統計的に「平均回帰」で考えると、平均を大きく上回った後の結果は、平均に回帰していくわけですから次回は『悪くなる』のです。だから統計的に考えると、
『叱った』後は成績が良くなり、『ほめた』後は成績が悪くなる
は正しいということになります。ただし、『叱った』『ほめた』という教官の行動とは関係なく…。
学校現場でも同じことが起きているかもしれない
私はこれを読んだときに、学校での「叱る」「ほめる」の話を思い浮かべました。皆さんは以下のような経験ありませんか?

子どもが問題行動を起こしたときに、「厳しく叱った」らその子は落ち着いた。

子どもが良い行動をしたときに「ほめた」。しかし、その後の行動は良いものではなかった。
そんな経験は、多くの先生が一度はあるのではないでしょうか。もちろん、それぞれの指導が全く意味がないと言いたいわけではありません。
ただ、その結果が本当に「叱ったから」「ほめたから」起きたものなのか…?
そこは慎重に考える必要があります。
叱ることも、ほめることも大切
私は、「叱る」ことも「ほめる」こともどちらも大切だという立場です。
安易に「叱るのは悪、ほめることこそ正義」という風潮は危険だなとも思っています。
ただ一方、「ほめて伸ばせ」に対する反論として、叱った結果やほめた結果を持ち出すのもおかしいと思っています。
大切なのは、自分の経験だけを根拠に教育を語らないことです。教育には心理学、統計学、脳科学など、さまざまな分野の知見があります。そうした視点を知ることで、自分が当たり前だと思っていたことを見直すきっかけになります。今回の「平均回帰」も、その一つでした。
以上、ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー』から「平均回帰」のお話を紹介しました。
最後までお読みいただきありがとうございました!
