働き方改革の推進や多様な働き方が認められている今、本業の他に副業を行う方も珍しくはありません。教員として働いている方の中にも「副業」に関心のある方は多いのではないでしょうか?
教員は公務員ですから、原則的に副業は禁止されています。しかし、副業が認められるケースもあり、実際に副業で副収入を得ながら勤務している教員の方もいます。
そこでこの記事では、教員の副業(兼業)について、根拠法令をもとに解説していきます。
そもそも教員が副業する事にメリットはあるのか?
そもそも、教員が副業する事にメリットはあるのでしょうか?
私は「ある」と思っています。
以下はあくまで私の考えですが、教員が副業することのメリットを書いていきます。
スキルアップの場となり、本業に生かせる
スキルアップの場となり、本業に生かせることが大きなメリットだと考えます。何を行うかにもよると思いますが、
- 時間管理のスキル
- 文章執筆のスキル
- 教員以外の文化に触れることによる対人スキル
などが身につくことが期待されます。もちろん、副業以外にもスキルアップの場はたくさんありますが、副業がスキルアップの選択肢となっても良いのではないでしょうか?
収益を得ることで収入が増える
収益を得ることで収入が増えることもメリットです。副業をしたいと考える場合の1番大きな理由ではないでしょうか?
公務員である教員は安定した収入があることはメリットです。収入の水準も決して低い訳ではありません。しかし、十分満足な収入かと言われるとそうではありません。副業によって収入が増えれば、より豊かな生活が実現できます。
収入が増えるということは大きなメリットだと考えられます。
公務員(教員)が副業できないのはなぜか?
公務員は副業が原則禁止されていますが、その根拠は何なのか?を知っておくことは重要です。
ここからは公立学校の教員が該当する「地方公務員」について書いていきます。
地方公務員法「営利企業等の従事制限」による副業の禁止
基本的には、地方公務員第38条によって副業が禁止されている、といえます。
職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない
地方公務員法38条
つまり、任命権者の許可無しでは副業できないという事が法令に明記されているのです。また、
- 職務に専念する義務(地方公務員法35条)
- 公務員としての信用失墜行為の禁止(地方公務員法33条)
- 職務上知り得た秘密を守る義務(地方公務員法34条)
などの規定もあり、これらは公務員の副業が禁止されている理由になっていると考えられます。
教員でも副業はできる
では、やっぱり教員は副業できないのかというと、そうではありません。
公務員の副業禁止の根拠となる法令の逆を考えれば、次のように解釈できます。
- 任命権者の許可を得て、
- 職務専念義務(35条)に違反せず、
- 信用失墜行為(33条)にあたらない内容であり、
- 職務上知り得た秘密を守る(34条)
ことができれば、公務員でも副業(兼業)はできるのです。
教育公務員特例法による「兼業」についての記載
教育公務員特例法第17条(兼職及び他の事業等の従事)には、教員の副業(兼業)について以下の通り明記されています。
第十七条 教育公務員は、教育に関する他の職を兼ね、又は教育に関する他の事業若しくは事務に従事することが本務の遂行に支障がないと任命権者(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三十七条第一項に規定する県費負担教職員(以下「県費負担教職員」という。)については、市町村(特別区を含む。以下同じ。)の教育委員会)において認める場合には、給与を受け、又は受けないで、その職を兼ね、又はその事業若しくは事務に従事することができる。
教育公務員特例法17条
一般の教員の場合は「県費負担教職員」にあたるため、市町村の教育委員会の許可があれば副業が可能であるという事になります。
教員の兼業は文部科学省も正式に認めている
教員の副業(兼業)については、以下のように文部科学省も正式に認めています。
(1)兼職兼業の根拠法令について 地方公務員である公立学校の教師は、当該教師が希望する場合であって、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第38条や教育公務員特例法(昭和24年法律第1号)第17条等の規定に基づき、服務を監督する教育委員会の許可を得た場合には、営利企業等に従事することが可能である。各教育委員会においては、所管する学校の教師が兼職兼業を希望する場合には、上記の法律や各地方公共団体における条例や規則等の関係法令に基づき、教師の本務に支障がないかどうか等も考慮し、適切に対応を行うこと。
文部科学省「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」を受けた公立学校の教師等の兼職兼業の取り扱い等について(通知)
文部科学省の通知でもこのように許可されていることは、知らない方も多いのではないでしょうか?
どのようなものが教員の副業として認められるのか?
では、どのようなものが教員の副業(兼業)として認められるのでしょうか?
ここまで書いてきた内容を法的根拠等をもとに整理すると、
- 所属する市町村教育委員会の許可を得て(地方公務員法38条等)、
- 職務専念義務(地方公務員法35条)に違反せず、
- 信用失墜行為(地方公務員法33条)にあたらない内容であり、
- 教員で職務上知り得た秘密を守り(地方公務員法34条)、
- 教師の本務に支障のない範囲で(文部科学省の兼職兼業についての通知)
で行えるものなら、教員でも副業が認められるということになります。
副業の許可は市町村教育委員会ごとの判断となるため、これなら認められると明記されている訳ではありません。
以下、具体的に認められると考えられるものを紹介していきます。
人事院規則によって公務員に認められている兼業(副業)
「人事院規則14-8(営利企業の役員等との兼業)の運用について」には、国家公務員の兼業について記載があります。これは地方公務員にも適用されます。この規則では、以下のものが認められると解釈できます。
- 小規模の農業
- 不動産賃貸(独立家屋の数が5棟未満、独立家屋以外なら10室未満)
- 駐車場の賃貸(駐車台数が10台未満、賃貸料収入の額が年額500万円未満)
- 太陽光電気の販売(太陽光発電設備の定格出力が10キロワット未満)
「人事院規則14-8(営利企業の役員等との兼業)の運用について」には、公務員の「自営に当たるもの」という記載があります。ここに記載のあるものは「自営」に当たるということを示しているのですが、逆に言えばそれ以外は「自営には当たらない」とも解釈できるのです。
4 前項の場合における次の各号に掲げる事業の経営が当該各号に定める場合に該当するときは、当該事業の経営を自営に当たるものとして取り扱うものとする。
人事院規則14-8(営利企業の役員等との兼業)の運用について(中略)
一 農業、牧畜、酪農、果樹栽培、養鶏等 大規模に経営され客観的に営利を主目的とすると判断される場合
二 不動産又は駐車場の賃貸 次のいずれかに該当する場合
(1)不動産の賃貸が次のいずれかに該当する場合
イ 独立家屋の賃貸については、独立家屋の数が5棟以上であること。
ロ 独立家屋以外の建物の賃貸については、貸与することができる独立的に区画された一の部分の数が10室以上であること。
ハ 土地の賃貸については、賃貸契約の件数が10件以上であること。
ニ 賃貸に係る不動産が劇場、映画館、ゴルフ練習場等の娯楽集会、遊技等のための設備を設けたものであること。
ホ 賃貸に係る建物が旅館、ホテル等特定の業務の用に供するものであること。
(2)駐車場の賃貸が次のいずれかに該当する場合
イ 建築物である駐車場又は機械設備を設けた駐車場であること。
ロ 駐車台数が10台以上であること。
(3)不動産又は駐車場の賃貸に係る賃貸料収入の額(これらを併せて行つている場合には、これらの賃貸に係る賃貸料収入の額の合計額)が年額500万円以上である場合
三 太陽光電気(太陽光発電設備を用いて太陽光を変換して得られる電気をいう。以下同じ。)の販売 販売に係る太陽光発電設備の定格出力が10キロワット以上である場合
これらは、親などからの相続や、一般住宅用の太陽光発電などを想定していると思われます。
許可の必要がなく通常に認められているもの
以下のものについては、そもそも許可をとる必要はなく、通常に認められています。
- 株式投資やFXなどの資産運用
- メルカリ等のフリーマーケットでの不用品の販売
NISAやiDeCoなどの資産運用はもちろん、FXなども個人で自由に行うことができます。(これは副業とは言わないと思いますが…)
注意する点としては、メルカリなどはあくまで「不用品の販売」だという点です。
利益を得るために商品を仕入れて販売を行う、いわゆる「せどり」については禁止となる可能性があるので注意が必要でしょう。境界が曖昧ではあるものの、あくまで不用品を売るということであれば問題ありません。
許可が必要であり実際に認められた例のある副業
実際に教員の方で、副業として認められた事例を紹介します。
- 教育に関する書籍の執筆
- 教育に関する講演活動
- 教育に関するブログやnoteの執筆
これらは、実際に副業として認められている事例があるものです。
しかし、これらが必ず認められる訳ではなく、あくまでそれぞれの自治体の教育委員会の判断ということになります。
また、書籍の執筆や講演会などは、やりたいからといって簡単にできるものではありません。ブログは気軽に始められますが、収益化や兼業の許可についてはややハードルが高いと思われます。
副業が広く認められる社会を
今は、転職やフリーランスなど働き方が多様化しています。本業とは別に、副業を行うことも一般化しています。そんな中、教員にも多様な働き方があれば、学生や転職希望者の選択肢として「教員」を考える方が増えるのではないかと思うのです。
教員不足については以下の記事で詳しく説明しています。
これまでにも兼業申請し、収益を得ている教員の方はいます。しかし、現時点でこれはなかなかハードルの高い事です。
もちろん、副業のために教員になる方はいないと思います。しかし、副業が広く認められることで、教員を選択肢とする方もいるのではないかと思うのです。
教員にも副業という選択肢が広がり、多様な働き方が浸透していくことを望みます。
最後までお読みいただきありがとうございました。